啓蟄

啓蟄(けいちつ)は、二十四節気のひとつです。啓蟄の「啓」は「ひらく」、「蟄」は「土中で冬ごもりしている虫」という意味があり、「啓蟄」は「冬眠していた虫が、春の訪れを感じて土の中から出てくる頃」という意味になります。二十四節気は太陰暦を使用していた時代、月の満ち欠けだけを考慮した暦だと季節との間にずれが生じるため、実際の季節を表すために考え出されました。二十四節気は、太陽の動きによって決まり、太陽の黄道上(太陽の通り道)の位置によって算出されるので、啓蟄は毎年必ず同じ日付になるわけではありません。2021年の啓蟄は、35日(金)です。また、啓蟄は期間を示す言葉でもあり、その場合は35日から春分の日(320日(土))の前日までということになり、35日(金)~319日(金)になります。

二十四節気をさらに3つに分けた七十二候は、啓蟄の間に移り変わります。初候、3月5日頃は蟄中啓戸(すごもりのむしとをひらく)といって、冬ごもりをしていた虫たちが戸を開いて顔を出します。虫に限らず、様々な生き物が目覚める頃です。次候、3月10日頃は桃始笑(ももはじめてさく)といって、桃の蕾がほころび、花が咲き始める頃です。昔は花が咲くことを「笑う」「笑む」と表現していました。花も人も笑うと周囲が明るくなって良いですね。末候、3月15日頃は菜虫化蝶(なむしちょうとなる)といって、青虫が羽化してモンシロチョウになる頃です。菜虫とは菜を食べる虫ということで、モンシロチョウの幼虫である青虫を指しています。モンシロチョウの他にも、いろいろな種類の蝶が舞い始める季節です。

啓蟄の期間に、「お水取り」と呼ばれて親しまれている東大寺二月堂の修二会が行われます(3月1日~14日)。奈良時代から続く行事で、終わる頃には冬があけるので、春を告げる行事として有名です。大きな松明から落ちる火の粉を浴びると無病息災で過ごせると言われています。菰外し(こもはずし)も、この啓蟄に行われます。「菰(こも)」とは、藁で作った筵(むしろ)のことです。害虫であるマツカレハの幼虫を駆除するために、11月頃に松の地上2メートルほどの高さに菰を巻きつけることを「菰巻き(こもまき)」といいます。江戸時代から伝わる害虫駆除の方法で、マツカレハの幼虫は冬になると枯れ葉の中などで越冬する習性があるため、「菰巻き」をすることで菰の中で越冬すると考えられており、春先の「啓蟄」に菰を取り外して焼却することでマツカレハなどの害虫を駆除する効果があると考えられていました。しかし、近年の研究でマツカレハなどの害虫はほとんど菰に集まらず、天敵である蜘蛛やヤニサシガメなどが多く集まっていたことがわかり、実際には害虫駆除の効果はないどころか逆効果であることがわかりました。そのため、皇居外苑や姫路城など、菰巻きを中止した場所もあり、盛岡の石割桜など続けている場所では冬の風物詩として行われていると言われています。

虫出しの雷は「むしだしのかみなり」または「むしだしのらい」と読みます。立春(2月4日頃)の後の初めての雷を指す言葉で、土の中で冬眠中の虫たちの目覚めを促す雷という意味があります。立春を過ぎ、啓蟄の頃には大気が不安定になり、雷が鳴ることがあります。この雷は、春の到来を伝えてくれるめでたいものと考えられており、啓蟄という言葉の意味するところと、雷に驚いて虫たちが出てくることから「虫出しの雷」と名付けられました。啓蟄になり、春の訪れを感じてそろそろ活動を開始しようとしている虫たちにとって、雷は目覚まし時計のような存在なのかもしれませんね。寒い冬の時期は、越冬のために冬眠する生き物がたくさんいます。厳しい冬を越え、春になって活動を開始するのが、啓蟄の頃なのです。虫出しの雷を聞くことがあったら、虫たちがそろそろ目を覚ますと想像しながら春の訪れを感じたいですね。