十日夜

「十五夜」と「十三夜」はご存知の方も多いと思いますが、「十日夜(とおかんや、とおかや)」はあまり馴染みがないのではないでしょうか?「十五夜」と「十三夜」はススキやお団子をお供えしてお月見をする行事ですが、「十日夜」は刈り上げ祝い(収穫祝い)の行事で、お月見が目的の行事ではありません。十日夜は、旧暦1010日に行われるのですが、現在の暦にすると、2020年は1124日になります。十日夜は月齢が十日目にあたり、「十五夜」「十三夜」に続き、その年に行われる三回目のお月見を行う地域もあることから「三の月」と呼ぶこともあります。しかし、本来の意味は、十日夜はその年の収穫を終わったことを意味しており、稲の収穫に感謝し、翌年の豊穣を祈って田の神に餅やぼた餅をお供えします。

十日夜の習慣は東日本を中心に残っており、この日は稲刈りが終わって田の神が山に帰る日なので「刈り上げ十日」ともいいます。西日本でも同じ意味の「亥の子(いのこ)」という行事が行われています。「亥の子」とは、亥の月の最初の亥の日、または、その日に行われる行事のことで、他に「亥の子祭り」や「玄猪(げんちょ)」「亥の子の祝い」といいます。子孫繁栄や無病息災を願い、収穫に感謝し豊作を祈願する行事となっています。地域によって行事の内容は異なりますが、群馬県や埼玉県、長野県の一部地域では「藁鉄砲(わらてっぽう)」といって、藁を固く束ねて作られたもので、歌を歌いながら地面を藁鉄砲で強く叩きます。地面を叩くことで、地中に潜むモグラやネズミなど農作物に害を及ぼすものを追い払い、五穀豊穣を祈ります。長野県の一部地域では「案山子(かかし)上げ」といって、田んぼを見守ってくれた案山子を田から引き上げ、庭に移す行事が行われています。案山子の神が天に上る、または山の神になる日とされ、案山子を神として祀り、蓑笠をかぶせ、箒やくまでなどを持たせ、お供え物をします。

十日夜の行事食は特にありませんが、田の神にお供えした餅やぼた餅や、収穫した食べ物をいただきながら、収穫に感謝し、翌年の豊穣を願うと良いようです。収穫祝いの行事なので、旧暦1010日を一ヶ月ずらして新暦に当てはめ、新暦の1110日に実施する地域が多いそうです。西日本の「亥の子」は11月最初の亥の日なので2020年は114日になります。古代中国の「亥子祝(いのこのいわい)」といわれており、亥の月の亥の日、亥の刻(21時~23時)に穀物を混ぜ込んだ餅を食べると病気にならないという風習があり、「亥の子餅」は行事食となっており、和菓子店の店頭に並び、お店によって作り方、見た目は様々となっています。

十日夜は初冬・冬の季語になっています。収穫に感謝し、その年の収穫が終わる頃というのは、季節は秋から冬へと移り変わる時期です。十日夜はお月見の行事ではありませんが、冬の足音を感じながら、収穫に感謝し、月を見上げて過ごすのも良いのではないでしょうか。